4時限
驚愕の新事実!?

そして、7 回目の課題テーマ「伝奇」の提出日がやってくる。
平成8年8月8日。
なんだかとっても、末広がりなその日は、
奇しくも、押井守氏の誕生日。
と、同時に、「小夜」の原形が初めて、姿を現した日。

神山 その「伝奇」テーマで、藤咲さんが出した「月光鬼譚」が「小夜」のモトネタになってるってところが大きいんですよね。
藤咲 小夜 月光
うん。「小夜」の原点はそこにある。
「月光鬼譚」の中から持ってきたのは、小夜のモチーフと、セリフ一個。
そのセリフっていうのが、押井さんの中で、ひっかかった。
(※↑ クリィーーーック!!!)

神山 で、この路線をもう少しつきつめてみようって事で、「伝奇」の次に「ホラー」「吸血鬼」をやってみようってことになって。
伝奇モノが以外に面白かったのかなぁ。やってみてね。藤咲さん以外は、むしろ、「伝奇」っていうテーマにピンとすら来てなかったんだけど。
藤咲 普通は、「伝奇」って、なんだろうっていうことから、まず入ってかなきゃいけないじゃないですか。俺は、そっち系の人っていう言い方変だけど、「伝奇」しか読んでなかったような人間だから。昔から、夢枕獏系・菊池秀行系・半村良系は、全部読んでて。「伝奇」ときたら、じゃあ! っていう、引き出しがあって。でも、評価としては、実は、あんまり良くなかった。
神山 やっぱり、思い入れが強いやつは、意外に、押井さんの評価は低いんだよね。
藤咲 うん、すべる。
神山 でも、その 1 つのセリフ、それは 1 つのキーワードになるだろうっていうことで。
藤咲 そこで、流れが出来て、次に「吸血鬼」をテーマにっていうことになった。
吸血鬼ものに関しては、押井さんの中でも、すごい、思い入れがあったみたいで。
神山 どっちかっていうと、押井さんは耽美派なんで。
藤咲 吸血鬼モノっていうと、必ず「ポーの一族」(萩尾都望)をまず真っ先に上げる人ですから。
神山 そう、意外に。
藤咲 おもしろかった漫画っていうと、「日出処の天子」(山岸涼子)だし。だいたい、そのへん、出してきますから。
神山 耽美な作品が好きなようですよね。(おどろきました・・・)
藤咲 好きですよね、押井さんは。「犬狼」とか、やってるせいで、ハード系の人なのかなって、思われがちだけど。実は意外と耽美系のヤツが好き。
だけど、逆に好きすぎて、できないのかもしれない。
神山 だから、人が、どういう吸血鬼像を作ってくるかっていうのを凄く楽しみにしてテーマを与えたんだと思うんですよね。
藤咲 LAST VAMPIRE-BLOODで、「吸血鬼」モノとして、神山さんが「LAST VAMPIRE」という企画書を出した。もう、タイトルまんまですけど。実際、「BLOOD THE LAST VAMPIRE」の世界観とか、翼手の設定はそこに詰まってる。

(※↑ クリック!)

「LAST VAMPIRE Desmodus rotundus」。と書かれたその企画書。ここから、「BLOOD THE LAST VAMPIRE」の世界が始まり、企画書タイトル自体も、映画のサブタイトルに受け継がれていく。・・・んじゃ、ところで、企画書サブタイトルの「Desmodus rotundus」とは?
神山 なんだろ?
藤咲 これ、「チスイコウモリ」の学名じゃ、ないの? ラテン語じゃないのかな?
神山 LAST VAMPIRE あー、そうだ。思い出した。「吸血こうもり」の学名です。これ。
俺はね、すごく即物的なものを考えてたんですよ。ロマンチックなこと、全然考えてなくて、ホラーっていうより、吸血鬼・吸血生物っていうのがいたら、それは学術上、どういうもので、どうやって生活してるんだろう? と。そういうことのみを考えてたんですよね、比較的、真剣に。
ホントに、色気もクソもない、企画なんですよ。(笑)
(※↑ クリック!)

藤咲 だから、そのままだと、逆に、危険とは言わないけど――
神山 危険ですよね、どう考えても。(笑)
藤咲 いろんなもん、付け足してって、ちょっとうさんくささっていうものを――
神山 まあ、うさんくささというか、華ですよね。
藤咲 ――を匂わせていって、全体的なもんが出来上がっていった。
神山 せっかく考えたものだから、離陸させるために、華を持たせようよ、って、ことだと思うんですよね。
「LAST VAMPIRE」の世界へと、さらわれていった「月光鬼譚」の少女。「小夜」の原型を作った藤咲淳一と、「BLOOD」の世界観の原型を作った神山健治。押井守によって、掛け合わされたふたり。正直なところ、お互い同士・・・、どうなの?
神山 藤咲さんと俺、同じテーマでやっておきながら、ホント、対極にあるような企画書だなぁと思って、今見ても。
藤咲 ホントに、二人とも、全然逆側にいる人間かもしれない。だから、いいのかもしれない。
神山 そうですね。あまりに、互いに足りてなかったんで、足しとこうって、押井さんは。
藤咲 うん。たぶん、押井さんとしてはそうだと思う。こいつとこいつ足しとけば、ちょうどいいんじゃないのっていう。
神山 こいつ、ココがたりねぇよなぁ、ってね。
藤咲 たぶん神山さんは、骨があるものを作るっていうところで、すごい豪腕ピッチャーで、ストレート勝負で押しまくるんだけど、あまりにも正直すぎて、打ち崩されちゃう。で、逆に、俺は、かわしてかわして、かわすんだけど、結局読まれてしまって、最後まではもたない、っていう感じがあるんだと思うんですよ。
それを補う部分さえ見つかってくれば、ひとりでやってけるんだろうな。っていうのはあるんですけど。
神山 始めは、あまりにも相反しているものだから、正直、まとめるの難しいとは思いましたよ。
藤咲 でも今回に限っていえば、設定とか世界観は、神山さんのを使って、「小夜」をどうねじ込むかだったんで。
神山 最終的な料理は、そこを北久保さんがうまくやったかなっていう気はしますよね。


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