日中、陰陽寮へと師・賀茂忠行を訪ねた晴明だったが、何をどのように説明すれば良いのか悩んだ末、結局は門を潜ることもせずに立ち去ってしまった。挫折は無論のこと、些細な失敗すらしたことがない晴明にとっては収穫のない報告や相談など、他人に頼るようなことはしたことがなかった。きりだし方が判らないのだ。
洛外を彷徨き、辿り着いた鴨川の河原で大の字に転がった晴明は、常に変わり行く雲の形を眺めながら自らの思考に耽った。
 (奴等は何者なのか……目的は……俺の隠形を見破ったあの仮面の女…)
いくら考えても堂々巡りにしか終わらなかった。いつしか空は茜色に染まり、再び闇の住人の領域がやってきた。
起きあがった晴明は諦めにも似た決意で都に戻っていった。所詮、自分で解決するしか残された道はないのだ。ならば……。
 「やってやる」
晴明は迸る鬼気をどうしても収められなかった。口の端が吊り上がり、目が歓喜に細められる。危険を楽しむその性はまさに鬼子としか言いようがない。

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