親愛なるファンのみんなへ
今は1999年の1月半ば。TVアニメ版「ポポロクロイス物語」の制作もラスト・スパートに入り、アフレコ作業もあと4話分というところまで来ています。(ちなみにダビング作業はアフレコの1週間後なので、あと5話分。完パケ編集作業はさらに10日後なので、あと6話分残っています。)
 物語も佳境を迎え、ラストのクライマックスへとひた走っているので、キャストのみなさんも今までにも増してノリノリです。このところ最終回がどうなるのかがアフレコ後の話題で、ヒュウ様やストン君から聞かれたりするのですが――それは内緒にしています。
 結末を想定して演技プランを練るよりも、物語の登場人物と同化して、お話の流れに身を任せて欲しいというタテマエもありますが、松井亜弥さんから最終回のシナリオが上がってくるまで、スタッフ全員(真下監督を除く)、同じように結末を知らなかったのですから――同じように、ワクワクしながら待っててね――という訳です。(アフレコ終了時に、次回の台本を手渡すことになっているので、その時までのお楽しみ。)
 スタッフが結末を知らない――そう言うと無責任のように思われるかもしれませんが、断じて違います。制作開始時には、ラフとはいえ、26話分の構成案がちゃんとありました。(途中で、お正月特番のために、1話分減りましたが。)でも、「ポポロクロイス物語」のように、登場人物たちが確固とした存在感を持っていると強引に物語を進めることができないんですよねえ。
 田森庸介さんが創造した原作本やゲームの中で生きているキャラクターたちですから、出自や性格をむやみに変更することは以ての外ですし、非常に魅力的なキャラクターたちだからこそ、アニメ化しようとした訳ですから……。
 当初の計画と違った方向に物語の流れが進んでいく――こういう時、よく「作者の思惑を越えて、キャラが勝手に動く」なんて言いますが、まさにそれです。具体的に説明すると、以下のような感じでシナリオ制作作業は進行していくのですが、その途中でキャラクターたちが自己主張を始めるのです。
 まず最初に、シリーズ構成に乗っ取った上で、その回を担当する脚本家がシノプシスと呼ばれる詳しいあらすじを書いてきます。まあ、この段階ではまだ、脚本家の掌中でキャラクターたちもおとなしくしています。
 ところがキチンとした形の第1稿ができあがってくる当たりから、様子が変わってくるのです。この第1稿を基に、主要スタッフで脚本の読み合わせが行われるのですが、この時、「ピエトロはこんなこと言わない」「ナルシアはこんなことしない」「ガミガミならこうするよな」って具合に議論百出となるのです。
 スタッフの口を借りて、キャラクターたちが「僕、こんなこと言わないよ」「私、こんなことしません」「俺様ならこうするのだ~ァ。男のロマ~ン!」としゃべっているようなものです。(想像すると、ちょっと怖いかも……。)
 台詞をひとつ変えるだけで、そのあとの展開がガラリと変わってしまうこともよくある話で――それがシナリオというものなのです。
 ですから、24話までのシナリオが完成した段階で、物語は膨らむだけ膨らんでいました。さらに付け加えると、この時点でやっと風族の正体(というか、設定かな)が判明しました、我々スタッフにも……。(実際には、ここからさかのぼって絵コンテ上で改訂作業が行われるので、ヒュウ自身はもう少し前に過去を思い出すことになっていますが……。)
 おお、そうだったのか――てなもんです。でも、「おいおい、これからどうなっちゃうの?」という状態でもあります。
 登場人物が結構多い「ポポロクロイス物語」。ストーリーの決着を付けなければいけないし、かといって、キャラクターたちをおろそかにはできないし……。「中途半端な気持ちじゃ、終われない」というキャラクターたちの心からの叫びが聞こえるようです。これをガミガミ流に言い換えると、「俺様にかっこいー見せ場を用意しなかったら、容赦しないからな!」となる訳です。
 それまでは順調に仕上がっていた脚本アップのスケジュールがここでストップしてしまいました。それが去年の9月下旬から10月初旬のことです。放送開始までに最終話のシナリオを完成させるのが、目標だったのに……。
 監督、三人の脚本家、その他スタッフが集まって、最終回の展開について話し合いを行いましたが、結論はでません。いや、結論は見えていたのです。でも、今まで24回に渡って活躍してきたキャラクターたち全員に決着を付けてあげるためには、30分という放送枠は短すぎるのです。
 キャラクターの存在を大切にしてきた物語なのですから、最終回もそうでなければなりません。こちらの都合で物語を終わらせる訳には行かないのです。
 結局、「私に任せてください」と言い切った松井さんに全てをお任せすることになりました。でも、原稿はなかなか上がってきません。松井さんの困った顔が目に浮かぶので、むやみに催促することもできません。そして、待つこと1ケ月。やっとメールが届きました。
 そして、どうなったのかって?
 それはまた別の機会に――いえいえ、最終回の放送をぜひご覧ください。


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