3時限
「華」がナイとか、「核」がないとか・・・

自分の中から生み出す「企画」。でも、ホントにモノになる「企画」とは・・・?

藤咲 押井さんは、とりあえず、毒出しちゃえ、って。
神山 それがすっからかんになったあとで、出てくる企画からが、本物だよ、と。
藤咲 何もないところから構築しようとすると、いろいろ調べたり、リサーチしたりしなくちゃならない、それが企画に活きてくるし、考えるようになるから、って。ある意味、客観的にも見られるし。
神山 今、読み返しても、結構、作りこんだつもりなのに全然ダメなのとか、コレは良かったなっていうの、押井さんの評価と俺の中での評価がぜんぜんズレてるやつとか、いろいろありますね。
「押井塾」では、まず本人が企画のプレゼン、それを全員で叩いて感想を述べ合い、最後に押井氏の評価がつけられた。自信をもって書いたはずの企画書。評価がズレた時、それは納得できるのか? コイツわかってないなー、なんて思ったりは?
藤咲 それはみんな、胸には思ってても、口には出さないですよ、あくまでも。
神山 なるほどな、って思うところもあるし。
作り手として、人に嫌われるモノを作りたくはないわけでね。媚びてるわけではないけど。あー、こういうモノはあんまり、他人が喜ばないんだなっていう、そういうリサーチにもなりましたよね。
藤咲 他人の企画書を見られるっていうのも面白かったし。
ひとり、なんか、とらえどころのない人間がいたんですよ。制作の子の中で。
神山 ふふふ。
とらえどころのないヤツという一言で通じてしまった「制作の子」。それこそ、のちに「BLOOD THE LAST VAMPIRE」の制作を担当することになる、イワノビッチ氏こと、岩品新氏であることが判明。・・・そういう人だったのか・・・!
藤咲 彼の出す企画書というのは、俺たちでは、絶対、つくれないものを書いてくるんですよ。ちょっと特殊な子っていうか、彼はそこが魅力だったっていうか。
神山 ウリとゆーかね。
藤咲 たまーに、出してくる。すごい、とんでもないのを。ロボット物の時に出した「小笠原の戦士」とか。テーマ的にも、海上警備隊、でしたっけ?
神山 海上保安庁。
藤咲 海上保安庁か。押井さん自体、海上保安庁に対して――
神山 思い入れがある。
藤咲 唯一、武器を携帯できる公安というか。
神山 日本国内で、実戦を経験する唯一の組織、なんだそうですよ。押井さんいわく。警察官以上に――
藤咲 ドンパチやってる。
神山 東南アジアから密航してくる人とか、密輸をしようとしているヤツら。銃を携帯しているヤツらと接触するわけですから、実戦なんだそうですよ。
藤咲 企画書の部隊が小笠原だったから、まだ、夢みたいなものがあるけど、これを日本海とか九州に持ってったら、もうナマナマしすぎることになっちゃって。
神山 かなりリアルな話になってしまうね。
藤咲 あまりに、現実問題すぎて、実際、企画には上がらないだろうっていう。
「押井塾」やったお陰で、ひとつ、いろんなコト・事件に対して、そういう見方が出来るようになったんですよね。今だったらホントに、「十七歳問題」って取り上げちゃえるけど、逆にこれは危険すぎて、上らないとか。
神山 企画にはならないのかな、とかね。
藤咲 ドラマにはなるけど、アニメには無理だよね、とかっていう。
神山 あと、アニメとして、離陸させる方法を考えろっていうのをよく、言われてましたね。
俺なんか、どっちかっていうと、実写映画とかドラマっぽい企画を出しすぎて、よく言われましたよ。
アニメーション制作会社で一番聞きたくなくて、一番むかつく、いえいえ、困難な壁となる言葉。「これ、実写でできるじゃん」
藤咲 そう。
神山 そこを突っ込まれると――
藤咲 何もいえない。
神山 おれなんか特に弱いんですよね。
もともとアニメで作るつもりで考えているモノに、どこまでリアリティを持たせられるか、すごく漫画っぽいものなのに、地に脚がついてるような感じを出すには、どういう手段をとったらいいかっていうのが、テーマとしてあって。これはくせなんですけど。漫画っぽい絵の中に、固有名詞や現実のネタを滑り込ませることで、リアリティが生まれるんですよ、っていう方法論で作り上げてしまう。でも、出来上がった企画書だけ見た人はね、これは「実写」の企画だよって言うんですよ。

MIMIC・・・と、あまりに「実写」「実写」と言われる神山氏、ついにキレたか、怪獣モノで出した企画「MIMIC(擬態)」は、堂々の<実写>映画企画! (※クリック! →)
藤咲 でも、神山さんって、そういう滑り込ませるネタ、よく見つけてくるなって、いっつも感心するんですよね。
神山 「押井塾」の時のは、全部、引出しにあったものですね。断片的なネタですけど。
藤咲 でも、そういうところが、結局、説得力に繋がっちゃうんですよ。企画書自体の、リアリティっていうか。重さ? 俺はよく、押井さんにそこがナイって、叱られてたから。
新聞読んだり、テレビ見たり、ただ歩いてても、何気に思いつくことっていうのを、どれくらいストックできるかだと思うんですよ。それをどう組み合わせて、その時に求められているものをどう作れるかで、転がると思うんですよね、企画って。
神山 企画ね。最近はね、よく、質問されるんですけど、「企画って、なんですか?」「決まらないもの」「じゃ、企画はどういう時に決まるんですか?」「決まる時に決まる」って答えて、みんなに、アホかぁって。(笑)
藤咲 神山さんのは、重さがあるんですよ。企画書じたいに。逆にそれが、もしかしたら、欠点なのかもしれない。
神山 だと、思いますね。
藤咲 だから、神山さんが監督で、その企画を動かしていく分には、OK なんだろうけど。だけど、コレを他の人にゆだねた場合、多分、それは崩れるだろうって、感じやすい。この人以外には、作れないからって。そこには、その人の全部思いが、詰まってるっていう。
だから、映画とか OVA とかっていう、単発で成り立つものだったら成立するけど、逆に、シリーズもので、他の人に・・・、ま、アニメーションの場合、特にいろんな人の手にゆだねなきゃいけない部分がある場合、その人の想いより、商品としてまわるかどうかっていうのが・・・。
神山 そういうイミではね、俺は、押井塾では評価高かったほうなのかもしれないけど、一般的に、俺の企画書って、たいがい歓迎されたことがないんで。しかも、「かたくなな企画者」というアダ名まで、つけられて。(笑)
藤咲 哲学者の雰囲気持ってるというか、求道的というか。
神山 なんでね。あんまり、最近は歓迎されないですよね。
藤咲 いいよ。突き詰めちゃえ。
神山 逆に、藤咲さんのやつは、見てて、いつも、決まりそうな気がする。俺のは、決まらなそうな気がする。(笑)
藤咲 俺は、おいしいとこしかもって来ないから。(笑)
神山 でもね、それはやっぱり、テクニックだと思うんですよ。そこが、真似できそうなんだけど、できなかったですね。
藤咲 タイトルとか、キャッチとか、そっちの方にやたら気ぃ配ってたっすから。うん、セリフとか。
神山 俺は、タイトルは 0 点だったね。毎回 0 点でしたね。押井さんいわく、おまえはタイトルのセンスないよ、俺もないけどって。
藤咲 でも、俺の企画書って、骨の部分っていうか、核がないんですよ。見栄えとか、見せ方、キャッチコピー、タイトルとかはイイんだけど、芯がない、って。そう言われたことが、残ってるんですよ、ずっと。
神山 俺は、キャラクターに華がないって言われましたね。ドラマの企画だったら、こういう人間でもいいけど、アニメである以上は、っていうのが、必ずあると。それはね、特殊能力があるとか、そういうことではないんだろうけども、何かそういうものが必要なんだろうっていう意味合いのことは言われましたよね。
藤咲 それは、肌感覚の部分になってくることであるとは思うんですよ。アニメのキャラとして、これが今、求められてんのかなぁっていう匂いを感じ取るみたいな部分。これ、結構難しいかなとは思うんですよね。ま、趣味もあるだろうし、その人個人の嗜好というか。
神山 あまり突飛なものが、俺は、基本的に好きじゃないっていうのが、そういうところに繋がっちゃうのかな。
うーん。むちゃくちゃ、残念なことなんですけど。こればっかりはね。脚が早いとか、背が高いとか、目がいいとか、そういうのと一緒で、華がないんでしょうか・・・?
藤咲 うーん。
神山 いや、そんなことはない。俺の企画にも華はある(はずだ・・・)(笑)
藤咲 でも俺、神山さんの魅力さ、もっと違うところにあるっていうの、実はあるんですよ。話してるとわかるんだけど、普段のウソ話とか、笑いのところに持っていく時の、そのなんだろ、ぶっ飛んじゃってる部分のほうが、逆にまわりは受け入れるかなっていうのあるんですよ。
神山 なかなか、それが、オリジナルってことになると、反映しないってだけなのかもしれない。オリジナル出す時って、丸出しなわけじゃないですか。丸出しな時にね、あんまり、バカばなしを出すのって、誰しも、難しいと思うんですよね。
押井さんですらね。
藤咲 押井さんでも、テレビの「うる星やつら」やった時の、れいの、聖夜のやつだっけ? もうできねぇ、って言ってた。
神山 若気のいたりだったと。(笑)
藤咲 ただ、よく、押井さんが言ってたのは、ウソのつき方っていうか、ある種、プロデューサーにいくらウソついてもいいから、見てるやつらにはウソつくなって。



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