<はじめに>

「ムサシノは木も道もまっすぐでやたらと大きくて」「さらさらとした空気の香り」

 ココネさんが住んでいるムサシノを、初めて訪れたときのアルファさんの言葉です。 「ヨコハマ買い出し紀行」のムサシノは、現実の武蔵野とは違いますが、読者はそこに、それぞれの身近な武蔵野のイメージを投影しているのではないでしょうか?  ところで武蔵野にはさまざまな顔があります。国木田独歩をはじめ多くの文人に愛され、現在も多数の作家が暮らしている近代文学発祥の地としての武蔵野。また、新宿、渋谷といった都心へ通 う人々のベッドタウンでもあり、年々自然が失われつつある東京にあって、豊かな緑が残る数少ないオアシスとしての武蔵野。そんな武蔵野について、ちょっと調べてみました。


<武蔵野の範囲>
武蔵野は広義には、利根川、荒川、その支流及び多摩川の流域に属する地質学上、第四紀に属する平野を総称するものですが、狭義の武蔵野は、東京を中心として、これに接続する平野、すなわち多摩川及び荒川の支流入間川などの流域に属する地方という認識が一般 的なようです。

<武蔵野の森林>

大正時代(1920年代)、武蔵野には豊かな自然がありました。現在の東京都区内でも、高井戸付近は四谷丸太、目黒地方は孟宗竹、駒沢村は栗。近郊の村のクヌギ、農家と街道の大ケヤキ、など産地が決まっていたようです。 現在も残る名木としては、五日市街道ケヤキ並木、府中大国神社大ケヤキ、北区一里塚のエノキ、多摩川上水の桜並木など。

参考文献:「武蔵野の森林並特徴」林学博士 白澤保美著(1920年)


<推定所在地>
ココネさんの家は「かんぱち(環状8号線の略)」「砧図書館」の近所、ということで用賀あたりでしょうか? 原作に描かれている風景は、現在の用賀付近とは全く異なりますが、国木田独歩が「武蔵野」に描いた田園風景は明治30年前後の渋谷近辺の様子でした。約100年前のひなびた東京の景色の中で、生活している「ヨコハマ買い出し紀行」の登場人物たち。なんだか凄く贅沢な気がします?。








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