獣道一直線
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<定光の原点“男シリーズ”とは>

大畑 OPの顛末にしてもそうなんだけど、考えてみりゃ『定光』って作品は、ワリと見切り発車的な部分もあって、なにしろアバウトなわけですよ(笑)。スタッフの人選も、昔から馴染みがあってシステム化されたような人たち同士で組むっていう堅実さがまるっきりないの。「この人とこの人をブッ込んだら何ができるんだろう」みたいな、ある種、闇ナベ的なスタッフなんです。だから、メインライターの赤星君も、実は今までアニメーションの仕事を一緒にしたことはない。たまたま二人とも仕事場が高田馬場にあって、近かったから知り合ったってだけ(笑)

──いいんですか、そんなこと言っちゃって。

大畑 実際、一度か二度、酒飲んでバカ話しただけで、彼が今まで書いた『デビルマンレディー』『THEビッグオー』も、一回も見たことないんですよ。ただ、彼がライターとして長くやってるって事はよくわかってた。純粋にシナリオの仕事だけをやってる人とは違う、いろんな引出しがあるんじゃないかなと思ったわけです。今回は全10話なんで、あまり冒険できなかったんですけど、僕は以前から一話完結で、幅の広い、バラエティーに富んだヒーロドラマをやりたいなと思ってた。いわゆる特撮ファン、ヒーローファンがよく話題にする『仮面ライダー』とか『スペクトルマン』とか『電人ザボーガー』とかには、その回ごとにいろんなエピソードがあって、とっても幅が広いよね。またその一方で、そういった60~70年代のヒーロードラマを意図的に真似たアニメも多い。「これは『ウルトラセブン』なんです」とか、「これは僕の中の『仮面ライダー』です」とかね。でも、メジャーな作品は真似されるんだけど、どマイナーな作品は見向きもされないわけですよ。で、今回『定光』をやるに当たって、実は僕もイメージしたものがあります。それは『ウルトラマンレオ』という作品なんですよ。その初期エピソードの中に“男だ!燃えろ!”とか“美しい男の意地”とか、なんか、ウルトラシリーズの洗練されたオシャレ~な部分を真っ向から土足で踏みにじるような(笑)、やたらと汗くさ~い、一連の“男シリーズ”というものがあるんです。これがけっこう好きでねぇ。やっぱり心のどこかに残ってたんだろうね。もちろん、まるっきり真似したわけじゃなくて、イメージに据えていたというだけなんだけど。原作漫画にも、どっか共通するものを感じるよね。主人公は喧嘩ばっかしてる不良少年なんだけど、悪意があって体制に反抗してるとかじゃなく、“男の生き様”として不良をやってるっていうような意味のことを言ってる。

──ああ、社会が間違ってるからとか、大人がだらしないからとか、自分の外に原因を求めるんじゃなくて。

大畑 そう、自分の中から湧き出てくるエネルギーを抑えられない、まさに荒ぶる“男”の物語なんだと、僕は解釈したわけ。そのエネルギーを、“喧嘩”から“回収”に向けていくんだと。ある種、『あしたのジョー』なんかにも通じますよね。持って行き場のないエネルギーが、何かひとつの目的をみつけたときに発揮される、野獣のようなパワーの爆発。ある一点に向けて、あり余る力を収束してゆくことの美学っていうか、心地よさみたいなものがあると思うんです。僕はそれを描きたい。今、エネルギーを持った若い人たちが、自分の将来が見えずに迷走している。良い手本を示せる大人がいないってこともその要因なんだけど、そんな中で定光ってヤツは自分自身のエネルギーのはけ口として流刑体を回収してゆく。正義のためとかじゃなくね。“男の生き様”として流刑体との戦いを選ぶ。それは今までのヒーロードラマのイミテーションとはまったく違うテーマだと思ったんです。「オレが戦いたいから戦うんだ!」と、そこが非常にナチュラルでおもしろいと。僕はそう思った。だから、ヒーロードラマでありながら『定光』のテーマは“正義”じゃない。“男”なんですよ。シナリオでもコンテでも、定光が自分の中に持っている“男の美学”を念頭において、この状況なら男としてどんなセリフを吐くんだろう、誰のために戦うんだろう、何のために努力するんだろうっていう部分を、第一に考えた。それが、オシャレなウルトラシリーズに“男”という汗くさいキーワードを共存させた『ウルトラマンレオ』の姿勢に対するリスペクト、作品へのオマージュでもあるんです。製作が進んで、コンテも半ばまで完成した頃に、『レオ』のビデオをあらためて見返したんですけども、これがなかなかおもしろいわけですよ(笑)。こんなふうに昔の作品を懐かしむ、昔の作品が見たくなるっていう現象は、旧作を踏まえたアニメーションや特撮ドラマを見た時に、やっぱりあると思う。ただ、昔の作品のビデオを売るために、今、新作を作るわけじゃない。昔、こういうことに非常にこだわった人たちがいた、子供番組の中でも“男”というテーマで描こうとした人たちがいたっていう、その“意思”みたいなものをね。継いで作っているのかもしれないな。どうしても、外見とか、映像とか、あるいはセリフとか、表面に現れるカッコいい要素ばかりが印象に残ってしまうし、見てる方にもわかりやすいから、そういう部分を真似しちゃう人は多い。だけどやっぱり、その時代時代に生きるクリエイターとしての“意思”を感じさせるものを、作るべきだと思うんですよ。

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