獣道一直線
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<かかってこいや!>

大畑 プロレス見てるやつが、プロレスラーになりたいなと思っても、現実的に無理じゃないですか。サッカー見てるヤツも、野球見てるヤツも、普通は選手の側にはなれない。まあ、そういう現実バージョンのヒーローがいる世界は、目の前で活躍してスカッとさせてくれるからね。でもアニメの世界っていうのは、そういうヒーロー的な寓話の世界を楽しむと同時に、「自分が作ってみたい」「参加してみたい」という気持ちも高揚させてるというか、高めていく効果もあると思うんですよ。じゃなかったら、『うる星やつら』や『マクロス』や『エヴァンゲリオン』を見て、声優になりたいとか、アニメーターになりたいとかいうヤツが、これだけ来てるはずがないんだよ。

──そういえば、ボロクソ言ってる人っていうのは、たいがい「オレが思ったのと違う」っていう意見ですよね。サッカーや野球じゃあ、そんな感想は出てこない。

大畑 やっぱり、どこかで「自分が作りたい」と思ってるからだよね。ボロクソ言うくらいの元気があっていいと思うし、ボロクソ言われないような作品はおかしいと思う。でも、そのボロクソの意見の中に、人間としての感性が入って来ないと駄目だよね。誰だって、電車の中で大股広げて座ってたり、タバコ吸ってたりするヤツって嫌じゃないですか。糾弾しなきゃいけない本当の悪とか、許されない事って、そういうところでしょう。「許せない」とか、「ムカつく」っていう怒りを、そっちじゃなくて娯楽作品に対してぶつけて来るんだったら、自分の感性で、ちゃんと感じたことで言って欲しいなと思うんですよ。すごくレベルが低いところの文句じゃ、聞いてても「スカっとこねえ」。定光じゃないけどさ。

──スタッフの打ち合わせには、ウルトラジャンプの編集の方も参加されていたそうですが。

大畑 最初の何回かは、同席してくださってました。僕らが色々と「定光の家は学校から何キロくらい離れた所にあるんだろう」とか、「この街自体の産業はどうやって発展してきたのか」とか、そういう話をするんですよ。それは、バックボーンをきちんと作っておかないと、そこから発展していくエピソードに嘘が出るから。それをずっと聞いてた編集さんが、「アニメの人は、色々考えてて大変ですね」って言うわけですよ。「漫画なんて一発キャラクターができたら、そのままガンガンイケイケで、そんな細かいことや難しいことは考えないんですよ」って言ったわけ。僕は、それがすごく心地よかった。「オレが言いたいことを代弁してくれたよ」って気がしたんです。要するに、アニメーションっていうのは、何も考えてない作品なんてありえないわけですよ。どんな作品でも、それなりにみんなちゃんと考えて、限られたスタッフの中で色々と作ってる。結局、漫画とアニメーションの違いっていうのは、一言で言うと、まさにその編集さんが言ったところなんです。「アニメーションは色々考えてて大変」「漫画はキャラクターができたらイケイケ」。アニメーションは大勢で作るものだから、漫画みたいな作り方はできない、しちゃいけないって、普通なら考えるわけです。でも逆に、漫画みたいな作り方で、アニメーションを作ってみるっていう考え方もおもしろい。それも実はアリなんじゃないか。そういう方法論で、今回は作ってみようと思ったんですよ。だから、一切抜け落ちちゃってる情報っていうのも、実はある。また、部分に対してのツッコミがあったとしても、『定光』にそういうことを言ってくること自体が、この作品の本質をはき違えてるとも言えるわけで。「お前ら漫画を深いところまで読んでないだろ」「定光という男を、お前らは知らねえんじゃないか」って、言ってやりたい。でも逆に、全10話しかないわけなんだから、言えるのは今しかない。タイミングを逃したら、言う機会なくなっちゃうんだから「言いたきゃ、言いたいだけ言ってこいよ」とも言いたいね。どんどんボロクソ言ってこいよ。オレをヘコませるくらいのこと言ってみせろ。オレは悪口くらいじゃ死なねえよ! ……って書いといて(笑)。

──本日は、お忙しいところをありがとうございました。ところで監督。

大畑 ん?

──OPのクレジット、真ん中に戻しましょうよ。

大畑 やだよ(苦笑)。

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