シリーズ構成に関する覚え書き
シリーズ構成・脚本/赤星政尚

 この世には3794の謎があると言われている。そもそも『ジェノサイバー』も『BLUE GENDER』も観たことないのに、なんで大畑さんから『定光』のシリーズ構成を頼まれたのか、ということも僕にとっては大きな謎のひとつだったのだけど、なるほど、仕事場が近所だったからだったとは(大畑晃一インタビュー参照)。ちゅーことは『定光』の仕事って、御近所付き合いの一環?
 てな話はさておき、どーも、赤星です。なんか更新するネタが欲しい、と藤本PDに言われたンで、アニメーション版『破壊魔定光』シリーズ構成の推移(を辿れるほど紆余曲折する時間は、正直なかったのですが)をまとめてみました。



●8月10日
 高田馬場の、それも焼肉屋という“野獣”監督・大畑晃一(敬称略)に相応しい場所で『定光』アニメ化のことを聞かされ、原作マンガを読みもせず、二つ返事で引き受ける。だってさぁ「赤星くんと一緒に仕事したいと思ってたんだよ」ってなこと言われたら、そりゃクラクラきちゃうよね。その時に、クリーチャーデザインが篠原保さん、キャラクターデザインが菊池晃さんで監督的に内定してるって話も、確か聞いてるはず。個人的にお二人ともファンだったので、それも二つ返事の原因(特に菊池さんには、僕がまだ「テレビランド」で仕事してる頃、『ガンバルガー』とかのカッチョイイ版権イラストを描いてもらってて、それが強烈に記憶にあるのです。菊池さんのぶっといトレス線は誌面映えがバツグンで……って、そりゃ余談か)。
 この時点で既に“主人公(定光)がバイクに乗る”設定は聞かされており、監督は「特攻服の兄ちゃんがバイクに乗れないのは妙だ」みたいな話をしてたはずで、いや、尸会はゾクなんじゃなくって……とか原作をパラパラめくりながら思ったけど、リアリティーの置きどころって人それぞれだなぁ、とも思ったので黙っておいた。
 ともかく、かなりオリジナル要素が高くなることを予感しつつ、なんか“御町内ヒーロー物”(って、言葉のイメージは良くないと思うけど)として各話完結性を高められればなぁ、とかそういうことを思ってたような気がする。



●8月18日
 新宿で監督と飲みながら打ち合わせ。それ以前に、原作(単行本2冊のみ)は読破済み。ただ、原作を読んで痛切に思ったのは、主人公(定光)がアタマ(勘でも可)良すぎ、というコト。これは個人的な感想なのだけど、『定光』って荒木飛呂彦マンガに通ずるアタマの良さがあって……なんちゅーか、マンガで小説を読んでる感じ?
 それをどう映像に置換するかが、この時点での個人的な懸案だった(けど、どっかで忘れた気もする)。で、この日は監督からシリーズの概略が書かれたメモを渡されたのだけど、以下、参考までにそれを記載しておく(文中、◯は登場する流刑体、及びガジェットの特性、◆は処理すべき設定、あるいは描くべきドラマ、とでも考えてください)。

第1話「流刑体」
◯刃物型
◯回収用宇宙船
◆ポンコツVS流刑体、定光のケンカ、ヘルメット装着
第2話「定光」
◯刃物型の一部が別流刑体と融合
◯定光+ポンコツ
◆定光VS流刑体(1)、ポンコツとの会話、親父、定光VS流刑体(2)
第3話「回収」
◯格闘型
◯元素系
◆流刑体を調べる親父、学校に現れる流刑体と刑事、立ち向かう定光
第4話「相棒」
◯格闘型
◯バイク型流刑体
◆バイクにとりついていた流刑体を助ける定光、取引、定光+バイク型流刑体VS流刑体+刑事
第5話 コメディ篇
◯百面相型(変身型)
第6話 ホラー篇
◯増殖型
第7話「処刑人」
◯巨大生物型
◯ヴァルチャー
◆ヴァルチャー登場、転校生、新しい敵となるか? ヴァルチャーVS流刑体
第8話「組織」
◯流刑体軍団
◯軍団ボス
◆流刑体をとりまとめるボス、軍団の結成、ヴァルチャーVS定光、流刑体ボスをとり逃がす
第9話「戦争」
◯流刑体軍団
◆警察+流刑体軍団の合体、戒厳令、拘束される定光
第10話「反乱」
◯流刑体+親父
◆ヴァルチャーVS軍団、流刑体に憑依されてる親父、定光 研究所を脱出、ヴァルチャーを救う
第11話「家族」
◯流刑体+親父
◯流刑体軍団のボス
◆流刑体になってしまった親父とのバトル、定光の記憶、母のこと、友情、ヴァルチャーのちょっとした協力、親父と流刑体を切り離す、警察権力の崩壊、流刑体狩りは続く

 第1話に「回収用宇宙船」という驚きの記述があったのに、実はいま気付いた。ごめんなさい監督。で、ここでは全11話だけど、いまメモを見ると僕の字で“全10話”と書き込んであるので、これを貰った時点で、全10話になることは決定済みのはず。
 また、監督が描いた“パワード特服(仮名)を着た定光”の絵を見せてもらったのも、この日。当初、監督的には、ポンコツ装着後の定光は、常に“パワード特服”を着て戦う構想があった。7話以降のパワーアップはこれを受けてのことで、この時点ではまだ原作の定光が「ウルトラジャンプ」の連載でパワーアップしてることは知らなかった。
 更に、ヒロインは神代やよいではなく、別人(がバルチャーになる)の方向で考えて欲しい(つまり、神代は登場させない)とのオーダーもあって、正直“いや、TFPはまだしも、商売的にそれでイイの?”的な気もしつつ、その後、FAXのやり取り、近所のロイホでの打ち合わせを経て、まぁ7話からの登場なら、その方が無難? とか思いながら、神代抜きの方向で考えることに。ただ、ソレはソレとして、1話から6話までの女ッ気のなさをどうしようか? という不安が脳裏をよぎる。なんとなく“ヴァルチャーは転校生よりも、それまで軽口叩いてた女性レギュラーが、なにかのきっかけで本質を取り戻してって……だったら、女教師?”みたいなことを妄想してたのも、この頃。この妄想が千恵子先生に繋がった気がする。
 また、1、2話が前後編で、定光がポンコツを被ったところで次週に引く、という監督からのオーダーも聞かされた。監督から言われたのは、“随行体の戦いをキチンと見せたい”的なことで、ついでに「『V3』の1話だよ!」と力説され、思いッきり納得。
 結局、西麻布で朝を迎える。



●8月22日
 高田馬場で、藤本PDと顔合せ。監督も同席。この日、付箋の貼られた単行本を見せられたのだけど、この付箋、WOWOW的にマズい箇所に対して貼られてるモノで、死体だとか、金属バットだとか、バタフライナイフだとかは、ことごとくNGの模様。“大畑晃一作品”ということで、グチュグチュ方面(?)に傾きかけてた気分を、ここで起動修正。この時点では、オン・エア版にバイレンス描写をプラスしてビデオ発売、みたいな話も、あるだけはあった。
 また、島田さんがヤク漬けになってる設定もキビしいとかで、ここで個人的に問題発生。前述「『V3』の1話」というのは、要するにクライマックスでヒーローが登場して次週に引く、というもので、じゃあ必然的にその間を埋める要素、例えば“定光が随行体と出会うまでの日常”を描く必要も生じる。だもんで、ここでアニメーション版『定光』は“学園番長SF”(って、そんなジャンルはない!)で行くことに決定。いや、マジメに、コレって斬新かも、とか思ってたような気がするのだけど、実際“学園番長物”的なネタって現在では形骸化してるっちゅーか、とりあえず大多数のアニメファンの嗜好に合わない要素ではあるよね? こーゆーのをマーケティング・リサーチ不足というのでしょうか? 
 そんなことにはまるっきり考えを及ばさず、クライマックス用の大ネタとして、警察に拘束された定光を特服着用の尸会メンバーが一丸となって救い出す、みたいなことまで考え盛り上がってたのが、この頃。



●9月2日
 西荻窪のスタジオディーンで、監督、藤本PD、ディーンの長谷川社長、飯嶋PD、ウルトラジャンプの岡田さんを交えての打ち合わせ。既に、8月31日にシリーズ構成案は提出してあり、勿論、神代未登場ヴァージョン。で、ヒロインはと言うと……

◆神泉 水香(かみいずみ・みずか)/ヴァルチャー
 ロングヘア。深窓の令嬢風。
 ヴァルチャーへの変身時は、ブルー・ボディー。
 狂乱の殺戮者へと変貌する。
 神代やよいのように流刑体を「消滅」させるのではなく「惨殺」する(自ら返り血を浴びるのを好む)。

 とあって、へぇ、こんなこと考えてたのか、と、いま思い出した。水香の名前は、牧阿佐美バレエ団の上野水香嬢(ネコ顔で、ちょっと神代系)からのイタダキ。原作の「赤」に対して「青」って(返り血も映えて)イイよね、とか思ってたんだけど(それだけに、映像の“百式カラー”には仰天)、UJ岡田さんの強い提言で神代を登場させる方向に起動修正(この日、結局は未使用となった中平先生の描かれたオリジナル・ヒロイン案も3ヴァージョンほど、チラッと見せてもらった)。
 また、この時点でのシリーズ概略は、

#1 流刑体<剥斬>VS随行体
#2 定光VS流刑体<剥斬>、定光VS流刑体<剥斬ver.2>
#3 バイク型流刑体を手に入れる定光
#4 熱海に出張、<駆崙>大活躍編(ヴァルチャー初登場)
#5 熱海からの転校生・コメディ編
#6 廃屋・ホラー編
#7 巨大流刑体VS定光、ヴァルチャーVS定光
#8 警察に捕われる定光
#9 警察対尸会、ヴァルチャーVS定光・第2ラウンド
#10 定光VS明信


 ヒロインは#4から登場。なぜ熱海なのかは、ロケ編は温泉街で行われる、というあるルールに則ってある。
 この概略を受けて、岡田さんから神代が定光の“思い出(幻)の女性”的な提言が出る。その類のハートウォーム系(?)の展開は好みじゃないのか、監督は難しい顔してた記憶があるけど「それイタダキ!」的に相乗りを決め込む。
 また、この日、岡田さんに貰ったメモには、冒頭でヤクザ事務所に乗り込もうとする定光にひっついて来るレディース(妹?)とかの記述とかがあって面白い。みんな、女ッ気のなさをどう補おうか考えてたのね、と感慨もひとしお。
 加えて、この構成案には“木刀ブレード”の記述もあって、これは#1で折れた木刀の切れ端からビーム状のブレードが伸びるというあまりにあまりな武器(この時点でもまだ2巻以降は未読)。掌からアクティヴデバイスを打ち出すだけだと殺陣がツラいよね、とか思って考えたんだけど、これで斬っちゃえば簡単に回収できちゃうわけで、1回の変身につき使用は1度きり、的なエクスキューズをつけといてもよかったかな、といまになって思う。で、この時点の定光には“異様なまでのノーコン”という設定があり、木刀ブレードは、それを受けてのモノ。ただ、一応書いたけど、そりゃないだろ、的な気分もあったンで、この設定は自主却下。他には“喧嘩の際には、親父の経営する「椿医員」から傷薬や包帯を持ち出し、ボコにした相手の前に置いて去る律儀な男”だとか“戦闘時には常に特服を着用”だとかの記述もあった。
 そんなこんなで“思い出の女性”としての神代を登場させる、という宿題を貰って、第二稿に取り掛かることになる。

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